あの頃は真夜中になると、色んな人達の夢の中を渡り歩いた。
毎晩ケーキ工場に忍び込んで苺を盗んで逃げる銀行員の夢。
まるで風船に針を刺すように「パン!パン!」とみんなの心臓を破裂させながら散歩をしている売れっ子モデルの夢。
誰も座っていない椅子に向かってずっと謝っているトロンボーン吹きの夢。
そして僕はある夜、年老いた犬の夢の中で美しい女性に出会った。
彼女は誰もいない公園でブランコをこぎながら小さい声で歌っていた。
それは僕の知らない曲だったのだけど、とても懐かしい気持ちになった。
僕は彼女に「君も夢の旅をしているの?」と聞いてみた。
すると彼女が「私はこの犬の夢の中に住んでいるの。でも、もうこの犬は死にそうだからその後私はどうなるのか心配で」と答えた。
それで僕は彼女を夢の旅に誘った。
僕は彼女の手を取り犬の夢から抜け出し、太平洋に浮かぶ大きな鯨の夢の中に飛び込んだ。
ずっと後ろの方で年老いた犬が悲しい声でないた。
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