2012年12月14日金曜日

焼き芋

クリスマスの次の日の朝のこと。

僕はコーヒーを淹れながら、彼女に「もう今年もあと少しだね」なんて話しかけた。

すると彼女が突然サンタクロースが持っているような白い袋を出してきて「じゃあ今年のイヤな気持ちを集めるわよ」と言った。

僕がキョトンとしていると「ほら、誰かの悪口とかちょっとした気持ちの行き違いとか変なトラブルとか色々あったでしょ。それを全部集めるの」と彼女が言った。

そして彼女は僕のPCを開けてメールやSNSでのやり取りなんかに検索をかけてネガティブな言葉や感情を取り出し、全部袋に詰め込み始めた。

「この辺りにもあるんじゃない?」と言って梅雨の時期のレインコートとか太陽の香りがしみこんだ夏の鞄なんかもチェックして、誰かをイヤな気持ちにさせた言葉とかちょっとしたイライラとかを全部白い袋に投げ入れた。

「これでお芋を焼くと美味しいのよ」と言ってサツマイモを袋に入れて「バターと蜂蜜!」と可愛い声で袋に囁いた。

そして僕の方をチラリと見て「これを言っておくと甘くなるの」と言ってウインクした。

そして僕らはマンションの裏の空き地に向かい、彼女は僕のイヤな気持ちに火をつけた。

あたりには焼き芋の甘い香りが広がった。

2012年12月10日月曜日

短歌

新しい僕の世界に雨が降るあと百年くらい傘はいらない

始まり

始まりを見つけたので、僕は「これだ」と思い、ずっと掴んでいた。

すると、通り過ぎる人達みんなが「まだそんなことやってんの?」と言った。

それで僕は手を離してしまった。

あの時からずっと始まりを探している。

そして今度こそ手を離さない。

小人の兵隊

小人の兵隊達が行進してきて、机の上のライトのスイッチを消した。

ラジオも消した。

冷蔵庫も消した。

小人の兵隊達は世界中のスイッチを消して回った。

時計の時間も消した。

月の明かりも消した。

小人の兵隊達が全てを消し終えたら、彼女の可愛い寝息だけが聞こえてきた。

柿泥棒

柿泥棒って昔のマンガでは見かけるけど、実際にはもういないんだろうなあ。

最近の子供がそんな危険をおかしてまで他人の庭の柿をとるなんて思えない。

なんて考えているとちょうど目の前に柿がたわわに実った木があった。

それで僕は小学生になって塀に足をかけ、柿に手を伸ばした。

すると家の中から「こらー。どこの悪ガキ!あなた。ちょっと外に出て注意して」と妻の声がした。

それで僕は上着をはおって、家の外に出てみた。

すると小さな柿泥棒はもうずいぶん先の家の角を曲がりながらこちらを振り返って

「やーい。悔しかったらここまでおいで!」と言っているところだった。

人魚の恋

人魚がある人間の男のことを好きになった。
 
人魚は男のために歌い、男を人魚の虜にさせた。
 
しかしひとつだけ問題があった。
 
人魚の下半身は魚だったため、人間の男性とは交わうことが出来なかったのだ。
 
人魚は下半身に人間の性器を付ける手術をした。
 
しかし人魚の元の姿への回復能力はすさまじかったので、あっと言う間に元の魚の下半身に戻った。
 
それでも男は人魚と交わりたいと懇願した。
 
それで人魚は男の目を潰し、人間の女をさらってきて声帯を潰し、二人を交わらせた。
 
人間の女が涙を流しているのを男は気がつき、人魚が喜んでいるのだと勘違いした。
 
人魚と男はいつまでも幸せに暮らした。

2012年12月9日日曜日

銃を持った天使たち

山手線で、今日はやたらと天使がたくさんいることに気がついた。
 
そしてその天使達はみんな手に天使には似合わない銃を持っていた。
 
浜松町につくとその天使達はいっせいに降りて、羽田行きのモノレールに吸い込まれた。
 
僕はそんな予定じゃなかったのだけど、天使達といっしょにモノレールに乗り込んでしまった。
 
するとモノレールの中は僕以外は全員天使だった。
 
人の良さそうな天使が僕のことをちらちら見ているので「あの、この列車は天使の貸し切りなんですか?」と聞いてみた。
 
すると彼が「君は天使じゃないの?」と言った。
 
僕はこれはちょっとまずいかなと思って「今は天使の修行中なんです」とでまかせを言った。
 
すると天使が「君はどうやって戦うの?」と言った。
 
僕が答えに困っていると天使がこう言った。
 
「どうやら事情を知らないみたいだね。僕らは幻想世界が好きだから現実と戦うんだ。君は次の駅で降りた方がいいよ」
 
そして天使が笑った。
 
気がつくと僕は浜松町の駅のホームで立っていた。

世界を絵本に

この時代のこの世界を一冊の絵本にしてくれ、という依頼が世界時代協会からあった。
 
映画だったらカメラをひとつ持って世界中を旅しながらそこで出会った人に話を聞くというドキュメンタリー風のものなんかが良いだろう。
 
小説なら自分のことを私小説として書くのが一番誠実のように思う。
 
音楽ならどうだろう。かなり安直な発想ではあるが現在の世界中のトップアーティストを集め、いくつかのパートに分かれたオペラ風の作品を作るのが正攻法だろう。
 
しかし依頼は絵本だ。ディズニーランドのイッツ・ア・スモールワールドみたいに世界中の子供たちを描いて、みんなで手を繋ごうというのが良いんだろうか。
 
ダメだ。すごく馬鹿げている。
 
100年後の未来からタイムスリップしてきた男の子と100年前の過去からタイムスリップしてきた女の子が突然出会い恋と冒険をするお話なんてどうだろう。これはマンガの方がふさわしそうだ。
 
何かをずっと探している物語が良いなあ。

天国の地図

相棒が「天国の地図を作ったら儲かるぜ」と言ってきた。
 
僕が「儲かるんなら君がやれよ」と言うと
 
「俺は無理だ。5人も人を殺しているし、強盗や詐欺だって数え切れないくらいやってる。まさか俺が天国に行けるとは思えない」と相棒は答えた。
 
「ということは、僕が一度天国に行って、天国を全部見てそれを地図にすればいいってわけだ」
 
「そういうことだ」
 
「でも地図はどうやって持って帰ってくればいいのかな。まさか天国からメールに添付して送信するってわけにはいかないだろ」
 
「もちろんだ。実はこの間ある天使の弱みを握ったんだ。それでその天使にこの天国の地図の計画を話したら、その天使はオマエを天国から下界に戻ってこれるように手配してくれるって契約になった。なんにも心配はいらない」
 
そんなわけで、僕はその場で相棒に撃ち殺されて、天国に行くことになった。
 
天国はお花畑と美女と虹がたくさんあるだけで地図は簡単に出来てしまった。
 
それで僕は天使を呼んで「そろそろ下界へ帰ろうと思うんだけど」と伝えた。
 
すると天使がこう言った。「言い忘れてたんだがそのままの姿では下界には戻れない。また赤ん坊からやってもらわなきゃならないんだ」
 
「赤ん坊だって? じゃあこの天国の地図はどうすれば良いんだ? まさか地図を抱いて産まれるってワケにはいかないだろ」と天使にせめよった。
 
「大丈夫。君は20歳になったら突然前世を思い出して、天国のことを話し出すから」
 
そして僕は相棒の赤ん坊になった。