その女の子は海を見たことがなかった。
だから最近転校してきた男の子が南の小さい島からやってきたと聞くと、とても嬉しくなった。
学校から帰る途中に男の子が歩いているのを見つけ、後ろからそっと近づき声をかけた。
「ねえ、海の話して」
男の子はびっくりして「海の話って?」と聞き返した。
「私、海って見たことないの。海ってどんな感じなの。教えて」
「そうかあ。海を見たことないんだ。僕が住んでいたのは小さい島だったから海って普通だったんだ。だからどうやって説明していいかわかんないや。『空の話して』っていう感じと似てるかな」
「そうか。なるほど。じゃあ私は空の話をするから、あなたは海の話をして」
「うん。じゃあそうしよう。ねえ、空ってどんな感じ?」
「空? 空はねえ。とてもとても広いの。空の機嫌が良いときは真っ青でどこまでもどこまでもその青が広がっているの。でもね、機嫌が悪いときは黒い色が広がって大荒れになるの」
「不思議だ。今君が言った空の話、まるで僕が知っている海のことを話していたみたいだ。あのね、話にしてみると空と海ってとてもよく似ているんだ」
「ほんと?じゃあ想像してみるね、目の前に空が広がっている感じ。素敵かも。じゃあ、海と空の違うところは?」
「違うところ… 空は切ないけど、海は悲しいよ」
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