公園のベンチでうとうとしていると、小さな虫が耳の中に入ってきた。
あれ、これはちょっとまずいことになったなあ、なんて思っていると頭の中から
「これはひどいな」という声が聞こえた。
ついうっかりと「え、どういうこと?」と僕がつぶやくと、
「まあとにかくこっちに来てみろよ」と虫が言う。
「いったいどうやったらそっちに行けるっていうんだよ」とからかい半分で答えたら
「こうやってだよ」と虫が言うと、僕はあっと言う間に裏返しにされて、虫と一緒に頭の中にいた。
僕の頭の中は寒くて暗くてゴムが焼けたようなイヤな臭いがした。
足下はヌルヌルしていて、何か柔らかいものや固いものを時々踏みつけるんだけど、僕は怖くてそれが何だか確かめられない。
虫はなぜか最初と同じ小さいままで僕の頭のまわりをブンブンと飛び回っている。
「最悪だろ」と虫が言うので、僕は「だいたい人の頭の中ってこんな感じじゃないかな。逆に全てが消毒されていて清潔な頭の中の人間ってちょっと信用できないな」と強がってみた。
「そんなに言うのならその無意識の扉を開けてみな」と虫が言うと、目の前には「どこでもドア」のようなただの扉が一枚立っていた。
この扉を開けると僕が二度と思い出したくないような傷ついた体験とか、歪んだ性の妄想とかが流れ出てくるんだろうか。
いやそれよりもっとひどい何かが待ちかまえているのかも。
僕は気持ちを落ち着けてここから脱出する方法を考えてみる。
虫を殺す?
扉の反対側から入る?
そうだ、これだ。
僕はポケットからライターを出して扉に火をつけた。
すると虫が「何やってんだ。逃げるぞ」と言うと僕の耳に飛び込んだ。
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