2012年8月27日月曜日

SNS

SNSで「友達じゃないですか?」と薦められた人達の中に20歳の頃の自分がいた。

名前も経歴も遊んでいる友人も何もかも20年前の自分だ。

僕はおもいきって「20年後の自分です。これも何かの縁です。友達になって下さい」と友達申請をした。

翌日、20歳の自分から「OK」の返事が戻り僕らは時空を超えて友達になった。

彼から「20年後ってどんな音楽や小説が流行ってるの? 何かオススメがあったら教えてよ」と連絡が来た。

僕はちょっと迷ったが正直に返事をすることにした。

「実は音楽も小説も最近はあまりチェックしてないんだ。たぶんそういうものって若いときだけに夢中になるものみたいだね。君はわからないと思うけど年をとるってそういうことなんだ」

次の日、返事が来た。

「色々と考えてみたけど仕方ないね。まあ僕は20年後は君みたいにはならない自信はあるけど。でも、音楽と小説に興味がなければ時間がすごくあまるでしょ。いったい何をしてるの?」

「友達と酒を飲んだり、女の子と美味しいもの食べに行ったりかな。仕事のつきあいもあるし」

「酒とグルメか。でも結婚してるんでしょ」

「結婚してるから女の子との食事が楽しいんだよ。たぶんどれだけ説明してもわかんないと思うけど」

次の日、SNSを開くと友達を外されていた。

雨工場

彼女が

「雨が好き。雨の匂いや、雨が降る音、雨の日に誰かを待ってる時間、誰もいない海に降る雨。色んな雨が全部好き」

と言ったので、僕は雨工場で働くことにした。

雨工場では様々な雨を生産し、雨を待っている地域や国に出荷した。

小糠雨、夕立、五月雨、スコール…

その国のその季節にあわせて雨は作られた。

僕は雨であればどんなものでも好きだけど、中でもブラジルの秋に降る「三月の水」が好きだった。

工場では好きな音楽をかけていい決まりだったので、僕らはアントニオ・カルロス・ジョビンの三月の水を聴きながら雨を作った。

みんなで雨の歌を口ずさみながら作る雨はとても輝いていた。

僕らは作業服にぐっしょりと作った雨が染み込んでいたのだけど、それも誇らしい気持ちで工場を出た。

工場から帰ると、家では彼女が待っていて僕を抱きしめてくれた。

彼女は僕のシャツをくんくんしながら「雨の良い匂い」と言った。

タクシー運転手ロック

時間旅行専門のタクシー運転手ロックは21世紀交差点で40歳くらいの女性を乗せた。

「どちらまでですか?」と言うと、

女性は月を見上げながら「20年前まで」と答えた。

「高速に乗りますか? その方が結構早くついちゃいますけど」とロックが言うと

「下で行って下さい。今までの私の風景が見れるから」と答えた。

ロックはギアを入れ替え過去へと走り始めた。

しばらく走ると雨が降り始めたのでロックはワイパーのスイッチを入れた。

「この辺りは雨なんですねえ」とロックは女性に話しかけた。

女性は「この辺りは3、4年くらい前かしら。たぶん私にとって一番雨が多い頃かもしれないわね」 と答えた。

「あの、立ち入った話しなんですけど20年前にどんな目的があるんですか?」

「ある男の人とどうしても会いたいの。私、彼とは本当は20年前に会うべきだった。普通に出会って普通にデートをして街を歩くべきだったの」

「ああ、晴れてきましたよ。今は10年くらい前ですかね」

理想的なセックス

理想的なセックスについて考えてみる。

海岸で少年と少女が大きい砂山を作っている。

二人はまだ幼いので身長はそんなに高くない。

だから砂山はあっと言う間に二人の背の高さくらいまでになる。

二人は出来上がった砂山を見つめて満足するが「何かが足りない」と思う。

砂山に必要なものは登山道だろうか とか、敵が攻めてきたときのための砂山をぐるっと囲むお堀だろうかとか、色々と思いをめぐらせる。

そして二人は同時に気がつく。

この砂山にはあちらとこちらを繋ぐトンネルが必要なんだと。

二人は反対側からお互いに、小さな手を使ってトンネルを掘っていくことにする。

しかし砂山は二人には大きいため、 思ったより簡単にトンネルは貫通しない。

もう随分二人のトンネルは進んでいるはずなのにまだ二人の手は届かない。

二人はすれ違ったんだろうかと不安になる。

二人で穴から手を出し、砂山を上から見て、お互いの進んだあたりを想像する。

たぶん僕らは間違ってないと確信し、また掘り進める。

そしてある時、二人は砂山の中のずっとずっと奥の方で少しだけ指の先の方が触れる。

さっきまではジャリジャリした砂の手触りしかなかったのに、生きて動いている人間の一部に触れてドキっとする。

そして二人は大急ぎで二人の間をさえぎる砂を外にかきだす。

そしてそっと手を握る。

これが僕の理想的なセックスだ。

豚のマリオ

その日、豚のマリオが教室に入ると、黒板に「豚は臭い」「ブーブーうるさいぞ」「おまえがいるとデブがうつる」「豚のくせに勉強なんかするな」と書かれていた。

マリオはみんなの顔を見たが、誰もマリオと目を合わせなかった。

マリオは自分の身体をクンクンと嗅いで、小さい声で「ブーブー」と言ってみた。

でも学校に来たんだし勉強しようと思い、自分の席に着こうとしたとたん、イスに画鋲がありそれをお尻で踏んづけてしまった。

マリオは「いったいみんなどうしたの?」と大声で叫んだのだけど、誰も答えてくれなかった。

マリオは大きな声で泣いた。

そして机にうずくまっていると そこで目が覚めた。

マリオはいつものように養豚場の中で繋がれていて、泥んこの中で眠っていた。

マリオは「どうしてあんな夢を見たんだろう」と不思議に思った。

そして「そうだ。明日は豚肉になるために殺される日なんだ。今日を精一杯大切に生きよう」と思った。

詩人のメガネ

詩人に

「どうやってそんな美しい言葉を紡ぎ出すんですか?」

と質問すると

「これをかけるんだよ」

と言って詩人のメガネを貸してもらった。

それで僕はそのメガネをかけて世界を見るとそこは死の世界だった。

僕が困った表情をしていると詩人がこう言った。

「君の言葉でこの世界を生き返らせると良いんだ」

鈴をつける

ほんと、彼女には参ってしまう。

可愛くて、柔らかくて、繊細で、残酷で、移り気で、良い匂いがする。

そしていつまでたっても全く彼女のことがわからない。

だから僕は彼女に鈴をつけることにした。

鈴をつけるとたぶんもう少しわかるようになると思うんだ。

鈴をつけた彼女が「りんりん」と音を鳴らしながら僕の目の前を歩いていく。

そしてあの可愛い瞳で僕を見つめこう言った。

「ねえ。こんな鈴で私のことほんとにわかるかしら?」