彼女が
「雨が好き。雨の匂いや、雨が降る音、雨の日に誰かを待ってる時間、誰もいない海に降る雨。色んな雨が全部好き」
と言ったので、僕は雨工場で働くことにした。
雨工場では様々な雨を生産し、雨を待っている地域や国に出荷した。
小糠雨、夕立、五月雨、スコール…
その国のその季節にあわせて雨は作られた。
僕は雨であればどんなものでも好きだけど、中でもブラジルの秋に降る「三月の水」が好きだった。
工場では好きな音楽をかけていい決まりだったので、僕らはアントニオ・カルロス・ジョビンの三月の水を聴きながら雨を作った。
みんなで雨の歌を口ずさみながら作る雨はとても輝いていた。
僕らは作業服にぐっしょりと作った雨が染み込んでいたのだけど、それも誇らしい気持ちで工場を出た。
工場から帰ると、家では彼女が待っていて僕を抱きしめてくれた。
彼女は僕のシャツをくんくんしながら「雨の良い匂い」と言った。
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