僕が働いている工場の同僚は宇宙人だった。
見たところ僕らと全く同じで、喋り方に変な訛りがあるわけでもないし、変なお祈りをするわけでもなかった。
食事も僕らと同じように工場の食堂でカレーライスやコロッケ定食を食べたし、仕事の後で飲みに行っても隣のラインに入った可愛い女の子について話し合ったりした。
そう、僕らにとっては全く普通の隣人として付き合っていたというわけだ。
それでも彼は自分が宇宙人だということにコンプレックスとか誇りとかが複雑に混じりあった微妙な感情を持っていて、時々僕らとの間に見えない壁のようなものが感じられた。
明日から夏休み、というある日のこと。
僕らは工場の近くにある焼鳥屋で生ビールを飲んだ。
僕が彼に「帰省するの?」と聞くと、彼は寂しそうな表情で「僕の星まで帰るのに光の速さでも3万年かかるんだ。そう簡単には帰れないよ」と言った。
僕は「でもたまに帰りたくなったりしないの?」と聞くと、彼は「まあね」と答えた。
駅までの道を歩きながら、夜空を見上げて「どの辺りに君の星はあるの?」と聞いた。
彼は「わかるかなあ。ほら、あそこにお寺があるでしょ。そのずっと上の方なんだけど」と言って遠い夜空を指さした。
僕が「君の星、夏は暑い?」と聞くと、彼は「あたりまえだよ」と答えた。
夏の湿った風が僕らの間を吹き抜けた。
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