2013年10月31日木曜日

王様とスイカ

王様はお城の周りにびっしりと埋め尽くされた革命軍を見て、ため息をつきました。

国民たちのことをずっと毎日考えて政治をやってきたのに、どうしてみんなわかってくれないんだろうと思いました。

大臣が寝返って革命軍を指揮しているという情報も入ってきました。

隣の部屋で銃声が聞こえました。おそらく姫が自殺をしたのでしょう。

革命軍の向こうにキラリと何かが光りました。海です。

王様は、そういえば一番最近、海水浴に行ったのっていつだったのだろうと考えました。

こんなことになるのなら、夏が終わる前に海水浴に行って大好きなスイカを食べておくべきだったと思いました。

大臣も一緒にスイカを食べてたらこんなことにならなかったのにと思いました。

恋って何?

リビングの電話がなったので、受話器をとった。

「もしもし。すぎなみ区の中島ナツオ5才です。恋って何ですか?」

そうか。たぶん、子供電話相談室と間違えてるんだ。でも、確かに恋って何だろう。僕も5才のナツオくんと考えてみることにした。

「恋はね、誰かをすごく好きになることなんだ」

「ママのことすごく好きだよ。それは恋なの?」

「それは恋じゃないな。ナツオくんはママにいつでも会えるでしょ。恋はね、めったに会えないんだ。ご飯を食べてるときも、お風呂に入ってるときも、会いたいなってずっと心の中でその人のことを思っちゃうんだ」

「にいがたのオバアチャンのこと、いつも会いたいなって思うよ。デンワをときどきするけど、いつも切るときにこんどお正月に会おうねって話すよ」

「それも恋じゃないな。恋はね、会えない間、その人の色んなことを知りたくなって、メールで質問したり、今だとネットに何か出てないかなって検索して調べちゃったりするんだ。おばあちゃんのことをすごく知りたいってことはないでしょ」

「テレビに出ている好きな女の子がいるよ。その人のこと、パパといっしょにケンサクして調べたよ」

「それも恋じゃないな。恋はね、その人も自分のことを好きだったら良いのになって思うんだ。そして、もしそうじゃなければ、自分のことをその人にいっぱい話して、なんとか好きになってもらおうとしちゃうんだ。そのテレビの人にそんなことはしないでしょ」

「うん」

「よし。じゃあ恋って何なのかまとめてみよう。まずすごく好きなこと。すごく会いたくて、ご飯の時も、お風呂に入ってるときも、ずっとその人のことを考えちゃうこと。その人の色んなことを知りたくなること。そして自分のことを好きになってもらうために、自分のことをたくさん話しちゃうこと」

「恋ってむずかしそう」

「全然難しくないよ。誰でも出来るんだ」

「恋すると、どんなかんじ?」

「苦しいかな」

「いたいの?」

「胸が痛いね。でも良い気持ちだよ」

「ふうん」

「こういう話、得意なんだ。また何かあったら電話してよ」

「わかった」

レモネードの話

「レモネードの話は書けたの? ほら、夏が終わるまでにすごく良いレモネードの話を書きたいって言ってたじゃない」

「いくつかアイディアだけはあるんだけど、どれもイマヒトツなんだよね」

「例えば?」

「若い男性が海岸通りでレモネードスタンドを始めたんだけど、全然お客さんが来なくて、自分にお店なんて向いてないのかな、なんて考えてたら、ちょっと不思議な感じのおじさんがやって来て、レモネードの思い出の話をするっての」

「なるほど。そのおじさんの話で彼はちょっと変わるんだ。他には?」

「15才の頃からずっと55年間、レモネード工場で働き続けてきた70才のおじいさんがいて、今日が退職の日なんだけど、若い同僚たちはデートとか色々用事があって、先に帰っちゃうんだ。それでがらんと静かな工場でひとりぼんやりしているとレモンの妖精が出てくるって話」

「うーん、ありがちね。まだある?」

「真夜中にキッチンの方に明かりがついてるから、どうしたんだろうと思って行ってみると、君が泣いてて。どうしたのって聞いても教えてくれなくて、それで二人でレモネードを作るって話」

「レモネードが何かの象徴ってわけね」

「どれもイマヒトツでしょ」

「うん。なんだかどれもどこかで聞いたような話ね。オリジナリティにかけるかな。私だったら物語はやめて詩にするかな。こんな感じで」

      ※

夏が終わるまでに、誰も聞いたことのないようなレモネードの話を書こう

登場人物が最初から最後までずっとレモンを絞ってるんだ

それでその世界は夜も音楽も恋も、全部レモンの香りに包まれている

海岸通りも、疲れたおじいさんも、君の涙も全部レモンで出来ている

その世界にたっぶりと蜂蜜をかけて、誰も飲んだことのないような美味しいレモネードの話をつくろう

言葉と言葉の間からレモンの香りが沸き立ってくるようなレモネードの話

そしてそのレモネードの話で、夏が終わるのなんて止めてしまうんだ

私をつくった男

この醜い男が私をつくった。

男が想像という大きな塊を床に置き、彫刻刀で少しづつ私を削りだした。

最後には、ざらざらした舌で私を舐めて、しっとりとした肌をうみだした。

男は私のことを世界一良い女だと言った。

自分でつくったのだからあたりまえでしょ、と私は言ったのだけど、そうではない、失敗作の女は今までたくさんいたんだ、と言った。

男は私を外に連れ出し、私にたくさんの服を買ってくれた。

私は服というものが大好きだということを知った。

服は私を美しく見せる。

服を着ると私は完成する。

男が、やはり良い女は高い服が似合うと言った。

良い女が高い服を着ると、脱がせることを考えて気が狂いそうになると言った。

あなたが私をつくったのだから、いつでも脱がせられるでしょ、と言うと、服を着るともう俺の女ではないと言った。

男は最後にこう言った。

俺はおまえの服を脱がせる男を深く嫉妬する、そしてその嫉妬こそが俺が生きていく理由だ。

雨を思いついた人

雨を思いついた人ってすごいなと思う

世界を作る会議
満場一致で「この世界には生命を作ろう」と決定する
会議は進み 生命には水と空気と光が必要ということになる

光について 誰かが太陽を思いつく 昼と夜を思いつく
僕だって太陽くらいは思いつけそうだ 
昼と夜は思いつけるかな どうだろう 
ちょっとした発想の転換が必要かも

空気について 誰かが風を思いつく
風なんて子供にも思いつけそうだ

水について 誰かが海を思いつく
僕にも海は思いつけそうだ

そして誰かが雨を思いつく
「ねえ、空から時々、小さい粒の水が落ちてくるってどうだろう。すごく不思議で美しい風景じゃないかな。寒い日にはその水が白いフワフワした氷になったりもする。すると僕らが作った世界が真っ白になっちゃうんだ。すごく綺麗だと思うよ」

雨を思いついた人ってすごいな
とてつもない想像力と 絵心を持ってる人だ
僕には雨なんてちょっと思いつけないな

      ※

そして誰かがこんな提案をする
「生命は男と女がいることにしたら物語が増えて、世界が楽しいことになるんじゃないかな」

そして恋愛が作られる

文学好きの誰かがこんな提案をする
「全部の恋愛がうまくいくと、世界はつまんないよね。失恋ってのも作った方がもっともっと世界が面白くなるんじゃないかな」

その人のせいで 世界にたくさんの片思いやお別れが生まれる

全部 失恋を思いついたあいつのせいだ

友よ

友よ

さっき初めて歩くのをやめたら、すごく遠いところまで来てたのに気がついたんだ

今、グーグルで調べてみたんだけど

君がいるところからここまで

地球と月の間を200回往復したのと同じ距離らしい

もちろん時間もその間にはたっぷりと横たわっているから

こんな短い距離じゃたりないかもしれない

でも友よ

ぼくも、たまにはそっちのことを懐かしく思うんだ

今はまだ、ここで戦い続けるよ

やらなきゃいけないことが多すぎて

最近は笑い方も教えてるんだ 

信じられるかな

友よ

また君がうんざりするような長いメールを書いてる

スクロールって誰が発明したんだろうね

最近思いついた冗談もたっぷり書く

君が笑わないのは知ってるけどね

そして友よ

たまにはこっちに来てみたらどうかな

また一緒に戦おうよ

最近は誰が敵なのかぼくが敵なのかわからなくなってきたけど

電池が切れそうだ

21世紀のぼくは電池で制限されてるんだ

22世紀の彼女が羨ましいよ

じゃあ