その海賊はとても強かった。
世界中の荒くれの船乗りたちもその海賊に出会うのだけは恐れた。
その海賊は人を殺すことになんの苦しみも感じていなかった。コックが料理を作るのが仕事のように、詩人が新しい言葉を探し出すのが仕事のように、彼は目の前の罪のない人間を黙々と毎日殺し続けた。
そして、彼はある日生まれて初めての恋をした。
恋をした場所は港でもなければ故郷でもない、今、海賊たちが襲っている船の上のある一室の中のことだった。
大金や宝石を持っていそうな一等室から順番に扉をこじ開けるのが海賊たちの流儀だったが、その恋した女性も一等室の中にいた。
海賊が部屋に押し入ったとき、彼女は驚いたことにウエディングドレスを着ていた。
海賊は自己紹介もせずに「結婚するのか?」と彼女に訊ねた。
彼女は毅然とした態度で「はい。この海の向こうの新大陸で私を待っている男がおります。あなたは海賊ですか?私はあなたにお渡しできるような物は何も持っておりません」と答えた。
海賊は自分の恋心をどういう風に伝えたらいいのかわからなかったので、とりあえずこんな質問をした。
「その結婚する相手はどんな男なんだ?」
「新大陸で花屋を営んでおります」
「花屋か。その花屋でバラを買って、おまえにプレゼントしても良いか?」
超短編小説とか
2014年2月11日火曜日
指輪の妖精
さっきからずっと彼女にあげる婚約指輪を眺めている。
サイズは彼女の親友からリサーチしたし、デザインも彼女の洋服の趣味なんかを店員さんに伝えて完璧に彼女が喜びそうなものを買えたはずだ。
でもなあ、どういうタイミングでこの指輪を渡せばいいんだろう。
今度の日曜日の買い物の帰りに「あ、そういえば、これ」なんてさりげなく渡した方が良いのかなあ。
そんなことを考えていると、その指輪から小さい女の子が現れた。
僕は驚いていると、その女の子が「私、この指輪の妖精。なんだかさっきからあなたがため息ばっかりついているから出て来ちゃった」と言った。
「妖精…ま、いいや。この指輪、どうやって渡そうか悩んでいて」
「婚約指輪ってことはこれを渡して『結婚してください』って伝えるんでしょ。あなたが結婚を考えてるのは彼女に伝わっているの?」
「全然」
「ええ!ダメじゃない。それなのに指輪なんて買っちゃったの?あああ、私どうしてこんなダメな男の指輪を選んじゃったんだろう。もし彼女が受け取ってくれなかったらどうするの?」
「そうなんだよね。でも、実は彼女、僕ともう一人迷っている男性がいて、その彼に勝つために先に指輪を渡そうと思って」
「なるほどね。わかった。じゃあ私に良いアイディアがあるわ」
サイズは彼女の親友からリサーチしたし、デザインも彼女の洋服の趣味なんかを店員さんに伝えて完璧に彼女が喜びそうなものを買えたはずだ。
でもなあ、どういうタイミングでこの指輪を渡せばいいんだろう。
今度の日曜日の買い物の帰りに「あ、そういえば、これ」なんてさりげなく渡した方が良いのかなあ。
そんなことを考えていると、その指輪から小さい女の子が現れた。
僕は驚いていると、その女の子が「私、この指輪の妖精。なんだかさっきからあなたがため息ばっかりついているから出て来ちゃった」と言った。
「妖精…ま、いいや。この指輪、どうやって渡そうか悩んでいて」
「婚約指輪ってことはこれを渡して『結婚してください』って伝えるんでしょ。あなたが結婚を考えてるのは彼女に伝わっているの?」
「全然」
「ええ!ダメじゃない。それなのに指輪なんて買っちゃったの?あああ、私どうしてこんなダメな男の指輪を選んじゃったんだろう。もし彼女が受け取ってくれなかったらどうするの?」
「そうなんだよね。でも、実は彼女、僕ともう一人迷っている男性がいて、その彼に勝つために先に指輪を渡そうと思って」
「なるほどね。わかった。じゃあ私に良いアイディアがあるわ」
お花の国の女の子
大きな花束が部屋の中に入ってきた。
僕がびっくりしていると、花束の向こう側で「こんにちは」という可愛い声が聞こえた。
なんだ。小さな女の子が大きな花束を抱えて、僕の部屋に入ってきたんだ。
そういえば、花束の下の方に可愛い足が見える。
僕は、「どうしたの? 顔を見せてよ」とその女の子に言うと「恥ずかしい…」という声が聞こえた。
「そのお花どうしたの?」と僕が聞くと、「私、お花の国から来たの。花占いが出来るから、このお花の中からどれかを選んで」と言った。
僕は目についた白いお花を引き抜くと、その女の子が「きゃー!」と叫んだ。
「いったいどうしたの?」と僕が聞くと「私、これからあなたと大恋愛をすることになりそう」と言った。
僕がびっくりしていると、花束の向こう側で「こんにちは」という可愛い声が聞こえた。
なんだ。小さな女の子が大きな花束を抱えて、僕の部屋に入ってきたんだ。
そういえば、花束の下の方に可愛い足が見える。
僕は、「どうしたの? 顔を見せてよ」とその女の子に言うと「恥ずかしい…」という声が聞こえた。
「そのお花どうしたの?」と僕が聞くと、「私、お花の国から来たの。花占いが出来るから、このお花の中からどれかを選んで」と言った。
僕は目についた白いお花を引き抜くと、その女の子が「きゃー!」と叫んだ。
「いったいどうしたの?」と僕が聞くと「私、これからあなたと大恋愛をすることになりそう」と言った。
鈴木くんが好きな絵本
「あれ中島さん、今日は一人なの?」という声がしたので後ろを振り向くと、鈴木君が自転車を降りて優しい笑顔を見せていた。
「うん、エミ今日風邪で休みなの」と私が答えると、鈴木君が自転車を押して私の方に近づいてきた。
(ちょっとちょっと、困る困る。だって鈴木君は学年で一番モテる男子で私の親友のエミだって去年のヴァレンタインデーにチョコレートをあげたりしたんだから。)
「あれ?鈴木君、帰り道はこっちで良いの? バス通りの方が近いんじゃなかったっけ」
「うん。でも歩くのだったらこっちの方が色んなお店があるから楽しいじゃない」
(こらこら。遠回しに私と一緒に帰るのはやめてって伝えているのにぃ。鈴木君ってそういうところ意外と鈍感なんだ。)
「中島さん、あの本屋でいつもよくいるよね。本、好きなんだ」
(えー!鈴木君、なんで私のことを見てたの? だって鈴木君って一年のバレー部の女の子と付き合ってんじゃないの? そのこと思い切って聞いちゃおうかな。あ、その前に鈴木君の質問に答えなきゃ。)
「あ、うん。私、絵本が好きなの。ちょっと子供っぽいでしょ」
「中島さん、絵本好きなの?俺もすごく好きなんだ。じゃあ、イチゴ畑のおばあさんの話知ってる?」
(キャー!私それ大好きなの。)
「イチゴ畑のおばあさん? ええと、あの本のことかなあ…」
「うん、エミ今日風邪で休みなの」と私が答えると、鈴木君が自転車を押して私の方に近づいてきた。
(ちょっとちょっと、困る困る。だって鈴木君は学年で一番モテる男子で私の親友のエミだって去年のヴァレンタインデーにチョコレートをあげたりしたんだから。)
「あれ?鈴木君、帰り道はこっちで良いの? バス通りの方が近いんじゃなかったっけ」
「うん。でも歩くのだったらこっちの方が色んなお店があるから楽しいじゃない」
(こらこら。遠回しに私と一緒に帰るのはやめてって伝えているのにぃ。鈴木君ってそういうところ意外と鈍感なんだ。)
「中島さん、あの本屋でいつもよくいるよね。本、好きなんだ」
(えー!鈴木君、なんで私のことを見てたの? だって鈴木君って一年のバレー部の女の子と付き合ってんじゃないの? そのこと思い切って聞いちゃおうかな。あ、その前に鈴木君の質問に答えなきゃ。)
「あ、うん。私、絵本が好きなの。ちょっと子供っぽいでしょ」
「中島さん、絵本好きなの?俺もすごく好きなんだ。じゃあ、イチゴ畑のおばあさんの話知ってる?」
(キャー!私それ大好きなの。)
「イチゴ畑のおばあさん? ええと、あの本のことかなあ…」
2013年10月31日木曜日
王様とスイカ
王様はお城の周りにびっしりと埋め尽くされた革命軍を見て、ため息をつきました。
国民たちのことをずっと毎日考えて政治をやってきたのに、どうしてみんなわかってくれないんだろうと思いました。
大臣が寝返って革命軍を指揮しているという情報も入ってきました。
隣の部屋で銃声が聞こえました。おそらく姫が自殺をしたのでしょう。
革命軍の向こうにキラリと何かが光りました。海です。
王様は、そういえば一番最近、海水浴に行ったのっていつだったのだろうと考えました。
こんなことになるのなら、夏が終わる前に海水浴に行って大好きなスイカを食べておくべきだったと思いました。
大臣も一緒にスイカを食べてたらこんなことにならなかったのにと思いました。
国民たちのことをずっと毎日考えて政治をやってきたのに、どうしてみんなわかってくれないんだろうと思いました。
大臣が寝返って革命軍を指揮しているという情報も入ってきました。
隣の部屋で銃声が聞こえました。おそらく姫が自殺をしたのでしょう。
革命軍の向こうにキラリと何かが光りました。海です。
王様は、そういえば一番最近、海水浴に行ったのっていつだったのだろうと考えました。
こんなことになるのなら、夏が終わる前に海水浴に行って大好きなスイカを食べておくべきだったと思いました。
大臣も一緒にスイカを食べてたらこんなことにならなかったのにと思いました。
恋って何?
リビングの電話がなったので、受話器をとった。
「もしもし。すぎなみ区の中島ナツオ5才です。恋って何ですか?」
そうか。たぶん、子供電話相談室と間違えてるんだ。でも、確かに恋って何だろう。僕も5才のナツオくんと考えてみることにした。
「恋はね、誰かをすごく好きになることなんだ」
「ママのことすごく好きだよ。それは恋なの?」
「それは恋じゃないな。ナツオくんはママにいつでも会えるでしょ。恋はね、めったに会えないんだ。ご飯を食べてるときも、お風呂に入ってるときも、会いたいなってずっと心の中でその人のことを思っちゃうんだ」
「にいがたのオバアチャンのこと、いつも会いたいなって思うよ。デンワをときどきするけど、いつも切るときにこんどお正月に会おうねって話すよ」
「それも恋じゃないな。恋はね、会えない間、その人の色んなことを知りたくなって、メールで質問したり、今だとネットに何か出てないかなって検索して調べちゃったりするんだ。おばあちゃんのことをすごく知りたいってことはないでしょ」
「テレビに出ている好きな女の子がいるよ。その人のこと、パパといっしょにケンサクして調べたよ」
「それも恋じゃないな。恋はね、その人も自分のことを好きだったら良いのになって思うんだ。そして、もしそうじゃなければ、自分のことをその人にいっぱい話して、なんとか好きになってもらおうとしちゃうんだ。そのテレビの人にそんなことはしないでしょ」
「うん」
「よし。じゃあ恋って何なのかまとめてみよう。まずすごく好きなこと。すごく会いたくて、ご飯の時も、お風呂に入ってるときも、ずっとその人のことを考えちゃうこと。その人の色んなことを知りたくなること。そして自分のことを好きになってもらうために、自分のことをたくさん話しちゃうこと」
「恋ってむずかしそう」
「全然難しくないよ。誰でも出来るんだ」
「恋すると、どんなかんじ?」
「苦しいかな」
「いたいの?」
「胸が痛いね。でも良い気持ちだよ」
「ふうん」
「こういう話、得意なんだ。また何かあったら電話してよ」
「わかった」
「もしもし。すぎなみ区の中島ナツオ5才です。恋って何ですか?」
そうか。たぶん、子供電話相談室と間違えてるんだ。でも、確かに恋って何だろう。僕も5才のナツオくんと考えてみることにした。
「恋はね、誰かをすごく好きになることなんだ」
「ママのことすごく好きだよ。それは恋なの?」
「それは恋じゃないな。ナツオくんはママにいつでも会えるでしょ。恋はね、めったに会えないんだ。ご飯を食べてるときも、お風呂に入ってるときも、会いたいなってずっと心の中でその人のことを思っちゃうんだ」
「にいがたのオバアチャンのこと、いつも会いたいなって思うよ。デンワをときどきするけど、いつも切るときにこんどお正月に会おうねって話すよ」
「それも恋じゃないな。恋はね、会えない間、その人の色んなことを知りたくなって、メールで質問したり、今だとネットに何か出てないかなって検索して調べちゃったりするんだ。おばあちゃんのことをすごく知りたいってことはないでしょ」
「テレビに出ている好きな女の子がいるよ。その人のこと、パパといっしょにケンサクして調べたよ」
「それも恋じゃないな。恋はね、その人も自分のことを好きだったら良いのになって思うんだ。そして、もしそうじゃなければ、自分のことをその人にいっぱい話して、なんとか好きになってもらおうとしちゃうんだ。そのテレビの人にそんなことはしないでしょ」
「うん」
「よし。じゃあ恋って何なのかまとめてみよう。まずすごく好きなこと。すごく会いたくて、ご飯の時も、お風呂に入ってるときも、ずっとその人のことを考えちゃうこと。その人の色んなことを知りたくなること。そして自分のことを好きになってもらうために、自分のことをたくさん話しちゃうこと」
「恋ってむずかしそう」
「全然難しくないよ。誰でも出来るんだ」
「恋すると、どんなかんじ?」
「苦しいかな」
「いたいの?」
「胸が痛いね。でも良い気持ちだよ」
「ふうん」
「こういう話、得意なんだ。また何かあったら電話してよ」
「わかった」
レモネードの話
「レモネードの話は書けたの? ほら、夏が終わるまでにすごく良いレモネードの話を書きたいって言ってたじゃない」
「いくつかアイディアだけはあるんだけど、どれもイマヒトツなんだよね」
「例えば?」
「若い男性が海岸通りでレモネードスタンドを始めたんだけど、全然お客さんが来なくて、自分にお店なんて向いてないのかな、なんて考えてたら、ちょっと不思議な感じのおじさんがやって来て、レモネードの思い出の話をするっての」
「なるほど。そのおじさんの話で彼はちょっと変わるんだ。他には?」
「15才の頃からずっと55年間、レモネード工場で働き続けてきた70才のおじいさんがいて、今日が退職の日なんだけど、若い同僚たちはデートとか色々用事があって、先に帰っちゃうんだ。それでがらんと静かな工場でひとりぼんやりしているとレモンの妖精が出てくるって話」
「うーん、ありがちね。まだある?」
「真夜中にキッチンの方に明かりがついてるから、どうしたんだろうと思って行ってみると、君が泣いてて。どうしたのって聞いても教えてくれなくて、それで二人でレモネードを作るって話」
「レモネードが何かの象徴ってわけね」
「どれもイマヒトツでしょ」
「うん。なんだかどれもどこかで聞いたような話ね。オリジナリティにかけるかな。私だったら物語はやめて詩にするかな。こんな感じで」
※
夏が終わるまでに、誰も聞いたことのないようなレモネードの話を書こう
登場人物が最初から最後までずっとレモンを絞ってるんだ
それでその世界は夜も音楽も恋も、全部レモンの香りに包まれている
海岸通りも、疲れたおじいさんも、君の涙も全部レモンで出来ている
その世界にたっぶりと蜂蜜をかけて、誰も飲んだことのないような美味しいレモネードの話をつくろう
言葉と言葉の間からレモンの香りが沸き立ってくるようなレモネードの話
そしてそのレモネードの話で、夏が終わるのなんて止めてしまうんだ
「いくつかアイディアだけはあるんだけど、どれもイマヒトツなんだよね」
「例えば?」
「若い男性が海岸通りでレモネードスタンドを始めたんだけど、全然お客さんが来なくて、自分にお店なんて向いてないのかな、なんて考えてたら、ちょっと不思議な感じのおじさんがやって来て、レモネードの思い出の話をするっての」
「なるほど。そのおじさんの話で彼はちょっと変わるんだ。他には?」
「15才の頃からずっと55年間、レモネード工場で働き続けてきた70才のおじいさんがいて、今日が退職の日なんだけど、若い同僚たちはデートとか色々用事があって、先に帰っちゃうんだ。それでがらんと静かな工場でひとりぼんやりしているとレモンの妖精が出てくるって話」
「うーん、ありがちね。まだある?」
「真夜中にキッチンの方に明かりがついてるから、どうしたんだろうと思って行ってみると、君が泣いてて。どうしたのって聞いても教えてくれなくて、それで二人でレモネードを作るって話」
「レモネードが何かの象徴ってわけね」
「どれもイマヒトツでしょ」
「うん。なんだかどれもどこかで聞いたような話ね。オリジナリティにかけるかな。私だったら物語はやめて詩にするかな。こんな感じで」
※
夏が終わるまでに、誰も聞いたことのないようなレモネードの話を書こう
登場人物が最初から最後までずっとレモンを絞ってるんだ
それでその世界は夜も音楽も恋も、全部レモンの香りに包まれている
海岸通りも、疲れたおじいさんも、君の涙も全部レモンで出来ている
その世界にたっぶりと蜂蜜をかけて、誰も飲んだことのないような美味しいレモネードの話をつくろう
言葉と言葉の間からレモンの香りが沸き立ってくるようなレモネードの話
そしてそのレモネードの話で、夏が終わるのなんて止めてしまうんだ
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