目を覚ますと僕のベッドのそばに彼女が立っていた。
「いつまで寝ているつもり?早く起きて。今から世界を始めに行くわよ」と彼女は言った。
「え?世界ってまだ始まっていないの?」
「何言ってんの。こんな状態で世界が始まっているように見える?世界は私とあなたが二人で始めるんでしょ」
どんな理不尽なことでも大真面目に断言する女の子に口答えをしてはならない、というのが僕の座右の銘なので、僕はベッドからはね起き、彼女と外に出た。
「さてと、どうやったら世界は始まるんだっけ。ボタンを押すのかな…」と僕が言うと
「何ふざけたこと言ってるの。とりあえず私が世界の錆び付いた
ところに油をさすから、あなたはそこを磨いてくれる?」と彼女は言った。
僕らは世界の錆び付いた箇所をすべて新品同様のピカピカにすると、大きいハンドルを回し始めた。
ハンドルがギシギシと音をたてている。
二人で「せえの!」と声をかけ、全体重をのせた。
すると、ゴトゴトと静かな音を響かせながら世界が
回りはじめた。
彼女が僕の方を見て、あのとびきり可愛い笑顔で
「やっと世界が始まったわね」と言った。
あの時からもう随分と時は過ぎたけど、今でも真夜中の静かな時なんかに耳をすましてみることがある。
するとやっぱりどこかから世界が回る音がかすかに聞こえてくる。
世界は回っている。
0 件のコメント:
コメントを投稿