夜道を歩いていると突然雨が降ってきた。
これは急がなければと少し早足で歩いていると、背後から「入りませんか?」と声がした。
見ると和服を着た40歳くらいの綺麗な女性が傘を片手にこちらを見ている。
知らない女性の傘の中なんていくらなんでもと思い断ろうとしたが、濡れた彼女の瞳を見ると私は何も言えなくなり、頭を下げて傘の中に入ってしまった。
「そんなに離れていると濡れますよ」と彼女は言うと私の腕に身体を寄せてきた。
「なんか積極的なんですね」と私が言うと
「何を言ってるんですか」と言ってすねた表情を見せた。
彼女の首筋から良い香りがする。
はっと気づくと街並みは知らない
場所になっていたのだが、何故か彼女にそのことを問いただせない。
彼女は懐かしい感情にさせる小さくて暗い和風の家の前で立ち止まった。
そして彼女が鍵を出して引き戸をガラガラと開けた。
当然のように彼女は中に入り私は続いた。
あの日からもう3年も経ったがこの家から出られない。
友人や親とも連絡はとれない。
彼女は壁の中で笑っている。
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