男はそろそろ旅を終わらせる時期だなと思った。
男は今まで長い旅を続けてきた。
たくさんの街で女を愛し、友人に裏切られた。
もちろん男の方が友人を裏切るときもあったし、女を捨てることもあった。
商売が上手くいき、街のみんなから大きな信頼を得て、このまま死ぬまでその街でずっといようと
思うこともあったが男はそれを選ばなかった。
この女と家庭を作り小さな店でも構えようかと思ったこともあったがそれも選ばなかった。
なぜなら男は人生そのものが旅だと思っていたからだ。
しかし男はもうそれなりの年齢になり、そろそろ旅を終わりにしても良い頃なんじゃないかと思い始めた。
そう、男は死ぬ場所を探し始めたのだ。
アジアの田園地帯。
アラブの砂漠の中のオアシス。
南米のジャングル。
アフリカのサバンナ。
ヨーロッパの古代都市。
老いた体を引きずって男は死ぬ場所を探した。
でも結局自分が死ぬのに適した街は見つからなかった。
男は自分の旅の人生を呪い始めた。
死ぬ場所にもたどり着けないなんて自分はいったい長い旅の途中に何を見てきたんだろうかと。
しかし男は気づいた。
探したり迷ったりするから旅なんだと。
自分は死ぬまで探して迷い続けようと。
そして男はいつものように分かれ道で右にすべきか左にすべきか迷いながら大きく笑った。
これが旅だ。
0 件のコメント:
コメントを投稿