2012年7月2日月曜日

僕の街、東京

築75年の古いスタイルのマンションに引っ越した。

玄関には靴を脱ぐ場所がなく、天井が少し高い。

いわゆる外国人向けのマンションだったようだ。

僕は外国人のように靴を履いて生活してみることにした。

キッチンでもトイレでも靴を履いている生活。

慣れてみると半日であたりまえになってきた。

テーブルに冷えたシャンパーニュを置き、改めて部屋を眺め回す。

そうか。この壁は75年間、たくさんの人間の歴史を黙って見つめてきたんだ。

僕は例えば一番最初に住んだ人を想像してみる。

日本に重要な情報を持ち込んだナチスの秘密工作員。

清朝の重要人物。

そして戦後にやってきたアメリカ人。

もちろん日本人も住んだはずだろう。

朝鮮戦争で儲かった海外を飛び回る商社マン。

60年代にはアジアかぶれのヨーロッパ人のたまり場だったかもしれない。

80年代はトーキョーのデザイナーやカメラマンのオフィス。

そしてその一番最後に僕がいる。

僕は街を作っている。

隣の大きな広い部屋の床に東京のジオラマを作り、そこに生命を吹き込んでいる。

この街は僕の思い通りだ。

僕は街を歩き、街の息づかいに耳を傾け、街の意志を聞く。

井の頭通りの流れが詰まり始めたことを感じると部屋に戻り、井の頭通りに風を吹き込む。

すると見えない命が流れ始める。

僕は東京の未来を考える。

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