築75年の古いスタイルのマンションに引っ越した。
玄関には靴を脱ぐ場所がなく、天井が少し高い。
いわゆる外国人向けのマンションだったようだ。
僕は外国人のように靴を履いて生活してみることにした。
キッチンでもトイレでも靴を履いている生活。
慣れてみると半日であたりまえになってきた。
テーブルに冷えたシャンパーニュを置き、改めて部屋を眺め回す。
そうか。この壁は75年間、たくさんの人間の歴史を黙って見つめてきたんだ。
僕は例えば一番最初に住んだ人を想像してみる。
日本に重要な情報を持ち込んだナチスの秘密工作員。
清朝の重要人物。
そして戦後にやってきたアメリカ人。
もちろん日本人も住んだはずだろう。
朝鮮戦争で儲かった海外を飛び回る商社マン。
60年代にはアジアかぶれのヨーロッパ人のたまり場だったかもしれない。
80年代はトーキョーのデザイナーやカメラマンのオフィス。
そしてその一番最後に僕がいる。
僕は街を作っている。
隣の大きな広い部屋の床に東京のジオラマを作り、そこに生命を吹き込んでいる。
この街は僕の思い通りだ。
僕は街を歩き、街の息づかいに耳を傾け、街の意志を聞く。
井の頭通りの流れが詰まり始めたことを感じると部屋に戻り、井の頭通りに風を吹き込む。
すると見えない命が流れ始める。
僕は東京の未来を考える。
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